
NHK朝の連続テレビドラマ「おしん」は1983年(昭和58年)に放映され、日本国内で空前のブームを起こしたほか、海外でも大変な人気を博しました。
このブログ記事では、海外でのおしんブームについて、各国の視聴率、反応や感想、仰天エピソードと、おしんがアジアと中東で人気を得た理由についてまとめます。
海外でのおしんブームの凄まじさ
1983年(昭和58)年に「おしん」の放送が始まると、日本列島は空前の「おしんブーム」に突入しまし、平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%というとんでもない数字を叩きだしました。
「朝の放送時間は水道の使用量が激減した」という伝説があるほど。(※)
1984年(昭和59年)からは海外でも放映され、凄まじい人気が巻き起こるのです・・・
※:NHKアーカイブス 番組エピソード「連続テレビ小説『おしん』」
シンガポール~駐日大使の熱いリクエストで海外初の「おしん」放映
最初に放送されたのはシンガポールでした。
きっかけをつくったのは、第4代シンガポール大統領を務めた黄金輝(ウィー・キムウィー)氏。

ウィー氏はもともと外交官で、「おしん」が日本で放送されていた時期、駐日シンガポール大使として東京に赴任していました。
「おしん」の大ファンになってしまったウィー氏は、日本大使の任期を終えた後、シンガポール放送協会の経営委員長の職に就くことに。
そこでウィー氏はNHKに、「私は『おしん』の大ファンである。是非シンガポールで放送したいので提供してほしい」と要望。
1984年秋に放送を開始すると、なんと視聴率80%を達成したのでした。(※)

幼少期に母親と「おしん」を熱心に観ていたキット・オウさん(2021年の取材時点で40代後半)は、英メディアBBCの取材に対して、「おしん」が戦後の反日感情をやわらげてくれたと話しています。
祖父母は(おしんを)観るのを拒否していた。2人にとって戦争の記憶はあまりに鮮明すぎたので。(中略)私たちの世代には日本に対してそういう怒りがなかったし、『おしん』が良い影響になったと思う。このドラマでは、日本人はそれほど敵には見えなかったので。
2021年6月5日 BBC NEWS JAPAN「ドラマ「おしん」が世界を魅了、そのわけは 文化や言葉にも影響」
おしんはシンガポール人の「日本観」にも大きな影響を与えたのでした。
イラン~なんと最高視聴率90%!?おしんは一番有名な日本人
シンガポールでの放送が評判となり、多くの国で「おしん」が放送されるようになります。
イランでは1986年に国営テレビで放送され、最高視聴率90%超を記録しました。
「おしん」はイランで最も有名な日本人であり、イラン出身のタレント、サヘル・ローズさんは、8歳で来日するときに「おしんに会える!」とお母さんと楽しみにしていたそうです。

小林綾子さんが大好きで、日本に来ると分かったときに何が嬉しかったかと言うと、おしんに会いに行けるのだということです。でも実際来てみたら大根も干していないし、着物を着ている人もいないし、発展した日本の姿に驚きました。(サヘル・ローズ)
2019年4月8日 ニッポン放送NEWS ONLINE「イランで放映される『おしん』は視聴率80パーセント」
ちなみに、イランで放送された「おしん」のタイトルは「家を離れて幾年月」というものでした。イラン・イラク戦争で家族を失ったり、物資不足に苦しんでいたイランでは、激しい共感をもって受け入れられたとか。
そしておしんブームの結果、なんとペルシア語(イランの公用語)にも影響が!
おしん夫婦が経営した子供服製造所(田倉商店)の名前から、イランでは古着市場や古着のことを「タナコラ」と呼ぶようになったのだそうです。(※)

※:2021年6月5日 BBC NEWS JAPAN「ドラマ「おしん」が世界を魅了、そのわけは 文化や言葉にも影響」
ベトナム~理想の嫁は「おしんのような日本女性」

ベトナムでは、1994年にホーチミン市テレビ局(HTV)が初めて放送し、放映時間には町に人影がまばらになるほど高視聴率を獲得しました(※1)
長く続いた戦争に苦しんだベトナムでは、戦後に驚異的な復興を遂げた日本と自国を重ね合わせる人々も多かったと言われています。
幼いおしんが子守として奉公に出ていたことから、ベトナムでは、「おしん(osin)」という言葉が「家政婦」という意味で使われています。(※2)
またハノイでは、清掃業や乳母といった職業に就いている人の多い地域が「おしんコミューン」と呼ばれているそうです。(※3)
また、「日本女性は、おしんのように忍耐強く慎み深い」というイメージが定着し、ベトナムで「中華料理を食べ、西洋の家に住み、日本人の嫁を貰うのが理想的」(Ăn cơm tàu , ở nhà Tây , lấy vợ Nhật)という言葉が生まれたそうです・・・(※2)
- ※1:ホー・ホアン・ホア「ベトナムにおける日本文化」アジア太平洋地域におけるグローバリゼイション、ローカリゼイションと日本文化 Volume3,2010年
- ※2:2013年6月20日 VIETJO「伝説の日本ドラマ『おしん』、日越国交樹立40周年でHTVが再放送」
- ※3:2021年6月5日 BBC NEWS JAPAN「ドラマ「おしん」が世界を魅了、そのわけは 文化や言葉にも影響」
エジプト~停電で「おしんが見られない!」と暴動発生!?

エジプトでは1993年に放映されました。
首都カイロでは、「おしん」放映時間に停電が発生し、おしんを見られないことに怒った視聴者が、電力会社やテレビ局に押しかけて暴動を起こすという事件まであったそうです・・・(政府が再放送を約束する声明を出し、事態はようやく収束したとか)
エジプト出身のタレント・フィフィさんは、当時を振り返り次のようにコメントしています。

「ドラマ『おしん』はエジプトでもブームになり、女の子に、『おしん』と名付ける現象が起きたほど」(※)
エジプトでは、子どもにイスラム教に関連する名前を付けるのが伝統的です。しかし「おしんブーム」は長く続く伝統をも切り崩してしまった様子・・・
※:2021年4月5日 日刊スポーツ「フィフィ、おしんは『エジプトでもブーム』橋田寿賀子さん悼む」
タイ~「おしん」を見るため政府の閣議時間が変更に…

タイでは、1984年に初めて放映されました。
タイ政府の閣議の時間が、「おしん」の放映時間に被らないように変更されたのだそうです!
また、バンコクの新聞が「おしん」の最新話のあらすじを掲載すると、発行部数が通常より1.7倍にふくらみました!
当時のタイでは、日本の経済進出に対する批判記事が毎日のように新聞に掲載されていましたが、「おしん」の放送が始まってしばらくすると日本人へのイメージが変わり、批判記事が少なくなったのだとか。
そして、30年近く経った2010年に、おしんブームが再加熱し、おしんの全てを網羅した特集雑誌が発行されました。

内容は、「おしん」の全話のくわしい解説、関連作品の紹介、ロケ地の写真、女優のプロフィールなど、膨大な情報量なのだそうです。
※2010年9月5日 exciteニュース「タイで『おしん』が再加熱ブーム!『おしん』の全てがわかる雑誌も発売」
香港~ディスカウントショップ「おしんや」が登場!
香港では1985年に、「亞信的故事(アッソンデクースィー)」というタイトルで放映されました。

広東語のオリジナル主題歌「信」をジュディ・オングが歌い、香港を含む東南アジアの広東語圏全域で大ヒットしました。

「命運是対手永不低頭(運命があなたの相手、決して屈しない)」という歌詞は、現在でも香港市民に親しまれているそうです。
また、香港には「759阿信屋(おしんや)」という食品ディスカウント・チェーンストアがあるのですが、創業者の林偉駿(コリス・ラム)氏は、親会社の証券コード「759」と人気ドラマの「おしん」を組み合わせて店名を決めたのだそうです。(※)

※ :2018年8月22日 香港経済新聞「『759阿信屋』創業者・林偉駿さん死去『おしん』を店名に市民に寄り添う店づくり」
台湾~再放送が数十回も!小林綾子の来台に市民が熱狂!
台湾では1994年に、中国と同じ「阿信(アーシン)」のタイトルで放送されました。
オープニング曲「永遠相信」をジュディ・オングが歌い、エンディング曲「感恩的心」を欧陽菲菲が歌い、どちらの曲も大ヒットを記録。


以来おしんは、台湾で数十回の再放送が行われています。
2008年におしんの少女期を演じた女優・小林綾子さんが、東京で行う舞台「おしん」のPRのため台北を訪れたとき、さまざまな人から「アーシン!アーシン!」と呼び掛けられたのだとか。

このとき5回目の訪台だった小林さん。初めて来たときから、台湾の人々に熱狂的に迎えられていたのだそうです。(※1)
2013年に公開された映画版「おしん」では、台湾のロックバンドMayday(五月天)と日本のバンドflumpoolがコラボした楽曲「Belief~春を待つ君へ~」が主題歌になりました。

MayDayは、1999年にデビューした、中華圏を中心にアジアで絶大な人気を誇るバンド。「映画版・おしん」のプロモーションに一役を買うと同時に、この曲をきっかけにして日本での本格デビューを果たしています。
2021年に脚本家の橋田寿賀子さんが亡くなった際に、台湾の新聞「中国時報」は、橋田さんのことを「日本文化界の国宝級人物」と表現しました。(※2)
中国~ 北京で視聴率75.9%を記録!

中国では1985年3月から、「阿信(アーシン)」として中国語の吹き替えで放送され、北京での視聴率は75.9%を記録しました。
★↓↓↓中国でのおしんブームについて、くわしくはコチラをご覧ください
他の国でもさまざまなエピソードが・・・
上記以外の国でも、
- ベルギーでは、修道院の尼僧が「おしん」を見るために、お祈りの時間を変更した。(※1)
- カナダでは、「おしん」のために現金や米が放送局に届いた。(※1)
- モンゴルでは、放送時間に道路から人の姿が消えた。(※1)
- ガーナでは「おしん」が慣用句になり、「おしんみたいに苦労する」という言い方が、「本当に大変な思いをする」という意味で使われた。(※2)
- インドネシアの視聴者は、日本人は「冷血」というイメージが、「おしん」を見てから劇的に変わったと語る。(※2)
など、さまざまな伝説が生まれています!
「おしん」はなぜ海外でウケたのか

世界約70ヶ国で放映された「おしん」。爆発的なブームになった国は、アジアと中東、そして南米の国が目立ちます。
おしんがアジア・中東を中心に人気が出た理由は何でしょうか。
おしんがアジア・中東などで流行した理由
ひとつには、日本の外務省が所管する独立行政法人「国際交流基金」が、発展途上国に無償で日本のテレビ番組を貸し出していることがあります。(※)
ふたつめには、おしんが苦難に耐えて商売を成功させ自立していくプロセスが、貧困・戦争に苦しんできた(あるいは現在も苦しんでいる)発展途上国に、共感と称賛をもって受け入れられたということもあるでしょう。
もちろん、自らも戦争体験者であり、リアルに嫁姑問題も体験した橋田寿賀子さんの、卓越した筆力の功績も大きいです。
また、小林綾子さん・田中裕子さん・乙羽信子さんを始めとする俳優陣のすばらしい演技の賜物であることは、いうまでもありません。
※:2008年7月10日 朝日新聞「『おしん』今も途上国で人気 25年間で放映64カ国に」
おしんは西洋文化圏で不人気?
ドイツ・ミュンヘン出身の著述家・タレントであるサンドラ・ヘフェリンさんは、ドイツなど西洋文化圏では、おしんはあまりウケないのではないかということをおっしゃっています。

サンドラさんは、「ドイツを含む北ヨーロッパの方々は『苦労する女の子』の話を美化する事に物凄いアレルギー反応を示す事が多い」と話します。
ドイツにそういう話が皆無かと言うとそんなことはなく、貧しい女の子が苦労する「Herbstmilch」という物語が1989年にベストセラーになり、映画化されたそうです。

舞台は第二次世界大戦前のドイツ。主人公は母親を病気で亡くし、8歳の女の子が兄弟9人の世話をするため、朝は4時起きで一日中働き詰め、食べ物はほとんどもらえない。
結婚をしたら姑に長年いじめられ、第二次大戦中に飢餓と貧困と姑のいじめに苦しむというその物語は、一見「おしん」とそっくりなものを感じさせます。
しかしその物語は、最後にイジワルな姑を家から追い出して「めでたしめでたし」というハッピーエンドで終わります。
それにひきかえ、おしんは「どんなに理不尽な目に合おうとも、女は人のために苦労をするのが美しい」という美談になっているのが、サンドラさんには引っかかるのだそうです。
西洋文化圏では「正義」「改革」「合理性」が好まれるので、
- エンディングを「そしておしんはハッピーになりました。やっほー!」みたいな軽い感じにする
- ドキュメンタリー映画的に「現在の日本では『奉公』は廃止されました。格差社会の撲滅のために皆様のご協力をお願いします」と説明を入れる
という物語になれば、「おしん」は西洋文化圏に受け入れられるのではないか(でもそれでは別の話になってしまう・・)と、サンドラさんは指摘していました。
ちなみに、同じヨーロッパでも旧共産圏は、おしんに描かれている「東洋的な情」に共感する人が多いとのこと。実際にポーランドでは「おしん」が放送されたそうです。
※:2014年5月9日 ドイツ大使館 サンドラ・ヘフェリン「『おしん』に見る比較文化」
世界の評判
「おしん」が中国で放送された当時、次のような反響があったそうです。
登場する日本人たちが現在の経済大国の底力であったことがわかり納得できた。
https://www2.nhk.or.jp/archives/search/special/detail/?d=asadra014
中国と日本に共通した伝統的な倫理観が根ざしている。だから我々は何の抵抗もなくこのドラマを受け入れることができた。
https://www2.nhk.or.jp/archives/search/special/detail/?d=asadra014
脚本家・橋田寿賀子さんが2021年に亡くなった際には、中国では微博(ウェイボー)などインターネット上に、哀悼の声が多数寄せられました。
おしんはバイブルだった。
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20210405-OYT1T50183/
(橋田さんは)人の心を温めてくれる作品を書いてくれた。
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20210405-OYT1T50183/
とても感動したし、今でもテーマソングを口ずさめる。
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-57353797
またツイッター上には、「おしん」について海外から次のような投稿が寄せられています。
このテレビドラマ、特に『おしん』は、イランで人気が高く、イ ラン人はこれらを観て日本や日本人に好意的な印象を抱い た。(イランより)
https://twitter.com/iranbunka/status/1209904431455776773
いつも家族で何を見ようかと迷うけれど、今回は父も母も、そして弟(13歳と14歳の思春期)と妹(7歳)も、「おしん」を見るのをやめようとしません。(ボリビアより)
https://twitter.com/KaetheSeleori/status/1259310405547102211(ブログ管理人が和訳)
私が子どもの頃、家で「おしん」が流れていたのを覚えています。父は見ながら涙を隠せませんでした。今でも主題歌を口ずさむことができると思います。苦難・戦争・飢餓・貧困・格差の物語でした。そして、犠牲・信念・諦観・忍耐・愛が勝利する物語でもありました。(アメリカより)
https://twitter.com/NikaSaeedi/status/1403865725652115458(ブログ管理人が和訳)
ありがとう、橋田寿賀子さん。安らかにお眠りください。小さい頃母の膝の上で「おしん」を見たことを、今でも覚えています。(シンガポールより)
https://twitter.com/mayooresan/status/1382899481465683970(ブログ管理人が和訳)
小さい頃、家で「おしん」が流れていました。今でも主題歌を口ずさめると思います。(ネパールより)
https://twitter.com/AnukramAdhikary/status/1400650726100013062(ブログ管理人が和訳)
世界各国で「おしん」が愛されていたことがわかりますね!
★↓↓↓おしん全297話のあらすじが20分で読める!超ざっくり解説はコチラ
まとめ
この記事では、 海外でのおしんブームについて、各国の視聴率、反応や感想、仰天エピソードと、おしんがアジアと中東で人気を得た理由についてまとめました。
戦争中に日本が占領していた国や、高度成長期に日本が経済進出した国は、日本人に対してよい感情を持っていないことがあります。
「おしん」はそういう国の人々をも感動させ、日本人への反感を緩和しました。文化の持つ力はすごい!
戦争経験者である橋田壽賀子さんは、「おしん」の中で一貫して、「戦争はよくない」というメッセージを発信していました。
橋田さんの優れた作品は、日本の平和文化として、国をこえて人々の心をつなげる役割を果たしていると思います!
最後までお読みいただきありがとうございました!
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