江戸川乱歩が1934年に発表した探偵小説「黒蜥蜴」。
1961年に三島由紀夫が戯曲化し、1968年に美輪明宏主演で舞台化・映画化され、大ヒットしました(当時は丸山明宏)。
伝説のカルト映画として海外からの評価も高い「黒蜥蜴」は、若い頃の美輪明宏の美しさがすごい!
このブログ記事では、美輪明宏の「黒蜥蜴」を見る方法、美輪明宏が「黒蜥蜴」に出演した理由、「黒蜥蜴」の内容(ネタバレあり)を紹介します。
残念ながら、美輪明宏さん主演の映画「黒蜥蜴」はDVD化されていません。
またネットでの配信サービス(VOD)で見ることもできない状態です・・・
過去にVHS化はされたことがあるのですが、今や中古VHSに20万円の値段がついています(驚)
なので、現時点では映画館での上映を待つしかない!
名画座系シアターでたまに上映していることがあります。例えば、2020年には新文芸坐(池袋)、2019年に国立映画アーカイブ(東京都中央区)、2018年には高知県立文学館で上映されていたようです。
ネット上では、美輪版黒蜥蜴のDVD化・VOD化が熱望されています。
2020年は三島由紀夫没後50年、江戸川乱歩没後55年だったので、何か動きがあるかと期待したのですが、結局何もありませんでした・・・
大スクリーンで見る価値のある映画なので、お近くの映画館で上映の機会があれば、ぜひ見てほしいです!
※美輪版より6年早い1962年(昭和35年)に映画化された、京マチ子主演「黒蜥蜴」はDVD化されています。
美輪明宏さん主演の舞台「黒蜥蜴」は、1968年(昭和43年)の初演以降、何回も上演されています。
1993年(平成5年)から美輪さんは、主演だけでなく、演出・美術・音楽・衣装も手掛けるようになりました。
そんな美輪さんの舞台「黒蜥蜴」も、2015年(平成27年)にラストステージを迎えました。
40年以上にわたって続けた舞台を終了する理由について、美輪さんは次のように語ります。
今年は三島さんの生誕90年、亡くなって45年に当たります。江戸川さんの没後50年でもありますし、私も5月で80歳ですからね。不思議に全てが節目の年。ちょうど区切りかなと思いましてね。
乱歩と三島の精神を受け継ぐかのように、80歳まで戯曲に魂を吹き込み続けた美輪明宏さん。
そもそもなぜ、美輪さんは「黒蜥蜴」を演じ始めたのでしょうか。
★昭和の文化人たちにモテモテ!美輪明宏の若い頃の写真はコチラ↓↓↓
美輪明宏さんが舞台「黒蜥蜴」に出演したのは、戯曲(脚本)を書いた作家・三島由紀夫に、3回にもわたって懇願されたからです。
三島は当時文壇の花形でしたが、ある演出家に「あなたの書いた芝居はどれもこれも全く客が入らない」と嫌味を言われて悔しく思っていました。
そんなさなかの1967年(昭和42年)、美輪明宏さんは寺山修司が作・演出を手がけた舞台「毛皮のマリー」に主演し、これが連日超満員の大ヒット!
美輪さんと三島は、長年にわたり親しい友人同士だったこともあり、三島さんは美輪さんの楽屋にたびたび足を運んで頼み込みました。
この役(黒蜥蜴)をやれるのは君しかいない。頼む!
どうして私なの?
君なら、僕のレトリックだらけの難解なせりふでも、日常語で分かりやすく観客に伝えることができる!
しかし美輪さんは、常に冷静な三島が取り乱している様子にピンと来て、「それだけじゃないでしょ?」と尋ねました。すると・・・
君がやってくれれば間違いなく大当たりする!あいつ(嫌味な演出家)に吠え面をかかせてやれるんだ!
と本心を吐露したそうです。(※)
★美輪明宏と三島由紀夫の関係について詳しくはコチラ↓↓↓
美輪さんは2回断りましたが、あまりにも三島が熱心なので、3回目に引き受けました。
そして美輪さん主演の舞台「黒蜥蜴」は、1968年(昭和43年)4月に東横劇場で初上演を迎え、大評判に!
狙い通りのヒットに、三島由紀夫は大喜びしたのでした。
★三島由紀夫がボディビルを始めたのは美輪明宏のせいだった↓↓↓
同時期に「黒蜥蜴」は、三島由紀夫の脚本・美輪(丸山)明宏の主演で、映画化されることになります。
監督は、美輪さんの推薦で、東映でヤクザ映画を撮影していた深作欣二(ふかさく・きんじ)に決定。
深作監督は当時新人でしたが、この映画「黒蜥蜴」の大ヒットで、名前が広く知られるようになります。
その後の深作監督は「仁義なき戦い」シリーズなどで、日本製バイオレンス・アクション映画の巨匠として、世界的に有名な存在に。
タランティーノ監督が大の深作ファンなのは有名な話ですね!
そして音楽を担当したのは、世界的シンセサイザー奏者・冨田勲。
冨田氏は何度も米ビルボード・チャートの1位を獲得していますし、さらに日本人として初めてグラミー賞4部門にノミネートされました。
三島由紀夫もノーベル文学賞候補者でしたし、深作欣二に冨田勲・・・昭和期に活躍した日本が誇るアーティストたちが関わった超名作、それが美輪明宏主演の映画「黒蜥蜴」なのです。
美輪明宏さんは、なんと原作者・江戸川乱歩とも交友がありました。
2人の出会いは1951年(昭和26年)、銀座にあったゲイバー「ブランスウィック」でのこと。そのとき美輪さんは16歳、乱歩は57歳でした。
その前に、歌舞伎役者の十七代目中村勘三郎が、「シャンソンを歌う音楽学校出身の美少年がいる」という噂を聞きつけて、ブランスウィックにやってきたのだそうです。
勘三郎さんは、美輪さんがシャンソン「枯葉」をフランス語で歌うのを聞いて、「フランス語でシャンソンを歌う16歳なんて初めて会った。キミみたいな人間を好きな人がいる」と言って、江戸川乱歩をブランスウィックに連れてきました。(※1)
★美輪明宏の幼少期からの生い立ちについては…↓↓↓
美輪さんは乱歩作品の愛読者だったので、乱歩に聞いてみたのだそうです。
明智小五郎ってどんな人?
ここ(手首を)切ると青い血がでるような男だ
まあすてき。冷徹で優しくて理想の男性じゃないですか
そんなことが君に分かるのかい?君のここを切ったらどんな血が出るんだ?
七色の血が出ますよ
面白い。じゃあ、切ってみようか。おい、包丁持ってこい!
乱歩は店員に本当に包丁を持ってこさせたのだそうです。「この爺さん、本当に切りかねない!」と思った美輪さんは・・・
およしなさいまし、七色の血が七色の虹になってお目がつぶれますよ
16歳でそのせりふか。面白いやつだな
乱歩は、美輪さんとの会話の節々に感じた「頭の回転が速くて物おじしない」態度も大変気に入り、美輪さんをひいきにしたのだそうです。(※3)
- ※1:2013年4月7日 女性自身「美輪明宏 江戸川乱歩に包丁持たせた『16歳の生意気セリフ』」
- ※2:2015年3月8日 スポニチAnnex「美輪明宏『黒蜥蜴』に幕を下ろすその理由、『不思議に全てが節目の年』」
- ※3:2017年7月18日「美輪明宏の『美少年伝説』三島由紀夫が思わず吐いた言葉とは?」
美輪明宏さん主演の「黒蜥蜴(Black Lizard)」は海外でも上映され、カルト的な人気を集めています。
1990年代初めから、深作欣二監督の作品に世界的な注目が集まりました。すると映画「黒蜥蜴」は、世界的に有名な三島由紀夫の脚本、冨田勲の音楽ということで人気が出て、ニューヨークやパリの映画祭でも上映されるようになったのだそうです。
1997年にはアメリカのジャズユニット「ピンク・マルティーニ」が映画のメインテーマ「黒蜥蜴の歌(Song of the Black Lizard)」をカバー。
2010年にはフランスの映画監督・パスカル=アレックス・ヴァンサンが、美輪明宏の作品と人生に迫る「美輪明宏ドキュメンタリー~黒蜥蜴を探して~(MIWA:A la Recherche du Lézard Noir)」を制作しました。(※)
それではここで、「黒蜥蜴」のあらすじと、美輪明宏主演の映画について出演者情報を紹介します。
あらすじ(ネタバレあり)
◆松竹映画「黒蜥蜴」 1968年8月14日公開 87分
探偵・明智小五郎は、ある晩とある秘密クラブを訪れます。そこで出会ったのは、宝石商・岩瀬氏の顧客であり、世界中の美しいものをコレクションしている緑川夫人でした。
緑川夫人の真の姿は「女賊・黒蜥蜴」。つまりドロボウであり、彼女は岩瀬氏が所有する30カラットのダイヤモンド「エジプトの星」(時価1億円)を狙っていました。
岩瀬氏の娘・早苗に対し、黒蜥蜴から誘拐予告があり、岩瀬氏は明智小五郎に早苗の警護を依頼します。
黒蜥蜴は早苗を誘拐し、明智小五郎は早苗をいったん取り戻すも、再度黒蜥蜴は早苗を誘拐・・・そのさなかに、明智は命を落としたように見せかけて、黒蜥蜴の秘密基地に潜り込みます。
明智小五郎は黒蜥蜴を捕まえる直前まで迫りましたが、黒蜥蜴は毒薬を飲み干しました。そして黒蜥蜴は、「あなたが生きていてよかった」と明智に愛を告白しながら絶命するのでした。
キャスト
- 黒蜥蜴・緑川夫人:丸山明宏
- 明智小五郎:木村功
- 岩瀬早苗:松岡きっこ
- 黒蜥蜴の部下・雨宮潤一:川津祐介
- 的場刑事:西村晃
- 明智の知人・黒木:丹波哲郎
- 生人形:三島由紀夫
スタッフ
- 監督:深作欣二
- 原作:江戸川乱歩
- 原作戯曲:三島由紀夫
- 脚色:成澤昌茂
- 撮影:堂脇博
- 音楽:冨田勲
美輪版映画「黒蜥蜴」について、Amazonが運営する世界最大の映画データベース「IMDb」から、レビューを紹介します。(原文の英語をブログ管理人が和訳・要約) ※評価は10点満点です
評価:10点
久々に、純粋に楽しめる映画を見ました。
2人の相反する登場人物のセリフは、彼らの正反対の倫理観を表すと同時に、お互いの違う考えを理解していることも表しています。2人の息の合った才能が、映画全体のストーリーと対照性をつくり出しています。
私は同じ映画を2回見ることはほとんどありませんが、この映画は早く次を見たいです。
評価:10点
日本で最も有名な歌舞伎の女形・ムラヤマアキヒロが黒蜥蜴として登場し、三島由紀夫が不気味な人間の剥製として出演する、とても奇妙な映画でした。
日本で最も有名なホラー作家・江戸川乱歩の原作を三島が脚本化し、さらに「惑星」のシンセサイザー奏者・富田勲が音楽を担当するなど、60年代の日本の芸術・文学界の顔ぶれが揃った映画です。
過去に天才たちがつくった映画を見ると、映画的にも知的にもパンチが足りないことが多いのですが、「黒蜥蜴」に関しては、サイケデリックな設定・詩的なセリフ・悲劇的な展開によって、芸術性の高いマンガとしても、よく練られたプロパガンダとしても、成功しています。
情動的であると同時に知的でもあり、派手な演出の中に本質的なものが隠されています。このような映画は滅多に見ることができません。
以上は10点満点の高評価レビューですが、最後にひとつ、辛口のレビューも。
評価:3点
今までかなりたくさんの深作映画を見てきましたが、この作品は非常に最悪でした。
ストーリーは笑ってしまうくらい予想通りで、登場人物にも全く共感できません。特に「黒蜥蜴」は最悪で、オースティン・パワーズの映画に出られるくらい陳腐でした。
主人公の探偵と黒蜥蜴の会話も空しく生気がない。簡単にいうと「アクションなし・予想通りのストーリー・退屈なセリフ・全体の悪さをカバーするほどの60年代的キッチュさもない」という感じでした。
深作映画のようなアクションを期待して見た人には、期待外れでしょうね・・・
それと、字幕の英語はかなり簡略化されているので、三島由紀夫の豊かなレトリックが表現されていないと思います。この映画の最大の魅力は美輪さんのセリフ回しなので、そこが伝わり切らないのは残念ですね。
この記事では、美輪明宏の「黒蜥蜴」を見る方法、美輪明宏が「黒蜥蜴」に出演した理由、「黒蜥蜴」の内容を紹介しました。
舞台版やテレビドラマ版は、美輪さん以外のキャストで続々制作されており、ヒロイン役を真矢ミキ・りょう・中谷美紀などが華麗に演じています。
でもやっぱり、美輪明宏版は別格!江戸川乱歩とも三島由紀夫とも交友していた「生きる昭和文学史」である美輪さんの含蓄にかなう役者はいません。
未だにDVD化されず、映画館でのリバイバル上映を待つしかない「黒蜥蜴」。日本だけではなく世界のファンからもDVD化が待ち望まれている一方、美輪さんの
世の中全体、デジタル化しているでしょ? でも便利と引き換えに情緒やロマンティシズム、叙情性を失ってしまいました。
という言葉を考えると、「この作品は銀幕で見るべき作品なのかもしれない」とも思うのでした。